(京阪神エルマガジン社発行 meets連載)

其の10 ココロの原風景はどこにあるか

足りて世平らかなり
 戦後の日清食品の安藤百福氏(※1)の役目は、帝國ホテルの村上信夫氏と同じ、
即ちおいしいものを世にまずは行き渡らせることと思う。たとえ、化学調味料を使おうとも。
食文化に対して偉大な功績を思えばこそ、これからの食はどうあるかを今一度問い直すべきである。
やはり、昭和の初めに戻ることこそが我々の行く道であるべきだ。百福氏がまた村上氏の担った戦後は終わったのだと思う。

食足世平(食足りて世、平らかなり)

 チキンラーメンの生みの親、安藤百福翁が今年1月5日逝去された。96歳の大往生であったそうな。
百福翁の残したこの言葉。ラーメン、いや食ぺ物を商うワシらには一番の金言ですな。
思えば、即席ラーメン(※1)で育ったようなワシの人生。百福翁がいなければワシはこんなにぶくぶくと
立派にラーメン太りすることになかったと思います。なんせ、物心ついた時は、ワンタンメン、カレーラーメン
チャルメラ、出前一丁、何でも来いってなもんでしたわ。そんなワシにはカップヌードルのデビューは
今思うても衝撃的でしたな。即席ラーメン、叔父さんの分もよう作ってあげました。
即席ラーメンとラーメンは似て非なる別の食べモンですけど、そのときから麺類は好きやったんでしょうな。

 そう言えば帝國ホテルの総料理長であった故村上シェフについてもこんな話を聞いたことがあります。
昭和30年代にNHKの料理番組を担当したとき、もちろん西洋料理を紹介する意味で村上氏が抜擢されたわけですけど
当時のことゆえ西洋的なる食材に乏しい時代やったんは想像に難くない。
まして、帝國ホテルと一般電話では大げさではなく月とすっぽんほどの開きがあったでしょうな。

フォン・ド・ヴォーなんてもの、なんじゃいそらってな時代ですわ。で、村上氏はハンバーグステーキ(※2)を世に紹介する際
バター、ケチャップ、ウスターソースと隠し味の醤油、そして少量の化学調味料を少し煮詰めたソースを提案したそうな。
要するに西洋的なだしをとることなんて叶わんのやったら、いっそこてっとり早く化調ですまそうということですわ。
当然m他のシェフ仲間からは化調使うなんて一流料理人の風上にも置けんてな批判があったそうです。
けど、村上氏は当時の主婦の家事の大変さを踏みて…、洗濯機も、炊飯器も普及してない世の中で
何とか西洋の香りのする料理(※2)を日本人に伝えたかったんでしょう・この誌面で何度も言うてますが、
ワシはラーメンに出来るだけ化調を使わんようにしてます。それだけに村上氏の気捗ちが少しでも分かるような気がします。
おそらく、自分の主義主張を曲げても、大所高所に立った見方のできる、料理人としても一人の人間としても
真に高い志のある方やったんやろと思います。ハンバーグステーキ、ワシらの世代には
今聞いても心ときめくよだれの出るエエ響きですな。
 百福翁は、何処にでも手軽に持も運べ、誰にでもすぐに調理できるチキンラーメンの開発を通して
おなかを空かした人々においしい食べ物が行き渡るようにしました。戦後の動乱期を何とかせなあかんとの思い
ワシらにとってまことにありがたいことです。西洋の食文化を少しでも一般大衆に伝えたい。
村上シェフのその思い、それもまたありがたいことです。偉大な先遼・先人たちあればこそ今の我々があることに
感謝せんとあきまへん。

そして、先人の稀有な功績を思えばこそ、これからの食をどう考えるかがワシらの世代(※3)の義務やと思うてます。
戦後という言葉をひとつのくくりとした。時代は確実に終わりつつあります。
新し日本発の食。世界に比して誇るべき日本の食文化を取り戻す。かつてワシらの爺さん婆さんが
自然と共生した時代(※4)にその答えがあるとにらんでます。その時代を今風に食に取り入れる。
戦後から戦前へ、見たことも無いけどなぜか懐かしいココロの原風景。ワシのラーメン人生にもうひとつの目標ができました。
がんばりまっせ!


※1 以前、インスタントラーメン発明記念館に行ったのがきっかけで、カップヌードルならぬ課“カッパ”ヌードル
   試作したことがあります。なかなかスペシヤル感のある無化調即席ラーメンになりました。
   が、何か違う。即席ラーメンのパンチにかけるんですわ。                                                                                                                              
   ためしに、味の素一振りすると、河童ごくウマ即席ラーメンの出来上がりですわ。
   即席麺と化調、これは認めるべきおいしい食べモンやなーと改めて思いましたな。
※2 マルシンハンバーグ。これをいかに高級感溢れる一品にするかが西洋的肉食のすべてやった時代があります。
   もちろんフォークとナイフで食べまんねん。ケチャップとマヨネーズをマゼマゼしてソースを作るだけで
   アメリカに思いを馳せることのできた昭和40年代初頭。しかーし!万博なんかでハンバーグステーキがメニューに登場したとき
   子供心に自分の想像していたものを目の当たりにしたときは感動しましたな。
※3 西洋=アメリカ的な考えは昭和30年代生まれの人はお持ちやないでしょうか。
   外国人言うたらアメリカ人です、ワシらの世代は、高級品はメイド・イン・フランス。クルマはベンツ。
   3時のおやつは文明堂ですわ。
※4 地球の温暖化。そろそろ本気で考えんとあかんでしょうな。中国が化石燃料を消費しだしたらインドが…。
   リサイクル、リュース、リデュース。言い古された言葉ですが、このことにつきます。
   ワシらのおばあさんの時代、たかが50年前には当たり前に出来ていたことです。


ラーメン資本論
其の1カツオブシとF1
其の2 "守・破・離"
其の3 売れたモンがうまいモン
其の4 食べもんとしてのバランスを欠いたらアカン。
其の5 ん?誰にでもできるこっちゃあらへん…。
其の6 たかが製麺、されど製麺。
其の7 河童ラーメンはチェーン店か否か。
其の8 飲食に関しては客もプロやということや。
其の9 ネットとうまいモン。
其の10 ココロの原風景はどこにあるか
其の11 未来の河童ラーメン[前編]
其の12 ラーメン屋のおっさんなんて…ラララ【最終回】